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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7724号 判決 1996年10月31日

横浜市港南区港南台四丁目一七番二四号

丸吉ビル六〇八

原告

浦上不可止

右訴訟代理人弁護士

阪口徳雄

津田広克

愛知県安城市住吉町三丁目一一番八号

(登録原簿上の住所・大阪市中央区北浜三丁目五番二二号)

被告

株式会社ユーテクノロジー

右代表者代表取締役

岡崎秀世

右訴訟代理人弁護士

石原寛俊

主文

一  被告は、別紙特許権等目録四、五、七、八の各1記載の各特許権について、それぞれ平成六年四月一一日解除を原因として同目録四、五、七、八の各2記載の各専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。

二  本件訴えのうち、その余の請求に係る訴えを却下する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は、別紙特許権等目録一ないし八の各1記載の各特許権及び九の1記載の実用新案権について、それぞれ同目録一ないし九の各2記載の各専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。

第二  事案の概要

本件は、自己の保有する別紙特許権等目録一ないし八の各1記載の各特許権及び九の1記載の実用新案権(以下「本件特許権等」といい、その特許発明及び登録実用新案を「本件特許発明等」という)について被告との間で専用実施権設定契約を締結した原告が、右契約で定めたロイヤリティの不払を理由に契約を解除し、右解除による原状回復請求権に基づき、被告に対し、本件特許権等についてされた同目録一ないし九の各2記載の各専用実施権設定登録の抹消登録手続を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、本件特許権等を有しているところ、平成四年四月、本件特許権等について、被告のため、次のとおりの約定で専用実施権を設定する旨の契約(以下「本件契約」という。甲一)を締結し、これに基づき同年九月二日専用実施権設定登録手続(登録原因は同年七月三〇日契約)をした(但し、本件契約の締結日につき、原告は、平成四年七月三〇日と主張するが、証拠〔甲四の1、九の1、原告本人〕によれば被告主張のとおり同年四月と認められる)。

(一) 実施料(ロイヤリティ)の年間最低保証額を二四〇〇万円とし、被告は毎月二〇〇万円を訴外有限会社浦上技術研究所(以下「訴外会社」という。代表取締役は原告)に支払う。

(二) ロイヤリティは売上高に対するロイヤリティと吸着自走ロボットの製造に対するロイヤリティの二本立てとし、売上ロイヤリティは、売上高が五億円までは五%、五億円から一〇億円までの分は四%とし、製造ロイヤリテイは、工場出荷額の二%とする。

(三) 右ロイヤリティは、四半期毎に算出し、(一)の最低保証額を超過する額を支払う。

(四) (一)及び(二)に定めるロイヤリティの構成及び料率については、今後の被告の事業の推移に伴い、その適正化を目的として、毎決算期毎に原告と被告とが協議して決定していくものとする(五条三項四号。以下「本件協議条項」という)。

2  ところが、被告は、前記最低保証額の平成五年一月から四月までの分合計八〇〇万円のロイヤリティを支払わなかった。

3  そこで、原告と被告は、同年六月一〇日、本件契約を次のとおり変更する旨の合意をした(以下「本件変更合意」という。甲三)。

(一) 被告は、前記2の未払のロイヤリティ八〇〇万円及び平成五年一月から三月までの役員報酬のうちの未払分二〇〇万円の合計一〇〇〇万円(以下「未払ロイヤリティ等」という)を、平成五年六月一〇日以降、毎月一〇日限り二〇〇万円ずつ五回に分割して原告に支払う。

(二) 被告は、平成五年五月分以降のロイヤリティ月額二〇〇万円については、そのうち一〇〇万円は訴外会社が被告から借り受けている(準消費貸借契約に基づく債務)三四二〇万円の返済に充てるものとし、その余の一〇〇万円(以下「変更ロイヤリティ」という)を訴外会社に支払うものとする。

4  しかるに、被告は、未払ロイヤリティ等一〇〇〇万円のうち、平成五年六月一〇日及び同年七月一〇日支払分の合計四〇〇万円を支払ったのみで、同年八月一〇日支払分以降その支払をしなかった。

また、被告は、変更ロイヤリティについても、同年五月分及び六月分の合計二〇〇万円は支払ったが、同年七月分以降の支払をしなかった。

5  原告は、平成五年九月二二日到達の同月二一日付再通知書(甲六の1)をもって、被告に対し、同年八月一〇日及び同年九月一〇日に支払われるべき未払ロイヤリティ等合計四〇〇万円並びに同年七月末日及び同年八月末日に支払われるべき変更ロイヤリティ合計二〇〇万円の総計六〇〇万円の支払を求めたが、被告はこれを支払わなかった。

6  原告は、平成六年四月一一日到達の同月七日付通知書(甲九の1)をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

( なお、被告は、後記二【被告の主張】2(一)において、原告の平成五年九月二二日到達の同月二一日付再通知書(甲六の1)で本件契約が解除されたことを前提とする主張をするが、原告が訴状において「原告は…平成六年四月七日付文書で最終本契約を解除する旨通知した。」と主張したのに対し、被告は「契約解除の通知は認めその効力は争う」との陳述をしている〔被告の平成六年一一月七日付準備書面〕から、右事実につき裁判上の自白が成立している。そして、原告が平成七年七月七日付準備書面において「平成六年四月七日付文書で契約が平成五年九月二一日付文書において既に解除されている旨通知した。」との主張に対し、被告がこれを明らかに争わないとしても、原告の右主張は、要するに前記平成五年九月二一日付再通知書(甲六の1)をもって本件契約の解除の効力が生じたという趣旨の法律上の主張であり、これに対する自白はいわゆる権利自白であって裁判所を拘束しないところ、右再通知書には、「通知人会社が、貴殿に一九九三年八月一日付通知書ならびに、同年八月二三日付訂正通知書において、催告した金四〇〇万円が本日に至っても入金されていません。更に九月一〇日支払予定の金二〇〇万円も入金されていません。よって、ただちに合計金六〇〇万円をお支払下さい。…これ以上、貴社の不履行が発生し続けますと、貴社との間の信頼関係を維持存続することは不可能であり、原協定書を解除いたしますので、右再度通知いたします。」と記載されているのみで、右六〇〇万円の支払期限及び右支払期限を徒過すると当然に本件契約を解除する旨の記載を欠くものであるから、右再通知書によって本件契約を解除する旨の意思表示があったと認めることはできない。)

7  本件に関する限り、原告と訴外会社とは同一人格として処理されている。

二  争点

原告が被告の未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティの不払を理由として本件契約を解除することは信義則に反するか。

【被告の主張】

被告がロイヤリティを支払わないのは、次のとおり、訴外アイムユナイテッドエンタープライズ株式会社(以下「アイムユナイテッド(株)」という)が原告から被告の株式を買い取った平成四年四月の時点で同社の代表取締役で本件契約により被告の代表取締役に就任した井出益夫(以下「井出」という)が原告から説明を受けていた事情が現実と大きく異なっており、本件特許発明等を製品化した吸着自走式ブラストロボット(以下「本件ロボット」という)の販売利益が上がらなかったため、本件協議条項に基づき原告に対しロイヤリティの改定等を求めて再三協議の申入れをしたにもかかわらず、原告がこれに応じなかったことによるものであり、また、被告は原告と同視すべき訴外会社に対し、原告ないし訴外会社に支払うべきロイヤリティ等の額を超える債権を有していたから、原告が被告のロイヤリティ等の不払を理由に本件契約を解除することは信義則に違反するものであり、右解除の意思表示は無効である。

1 本件協議条項違反等

(一) 被告は、本件特許発明等に係る本件ロボットの製品化及びその製造販売を主たる目的として、平成元年一二月に原告が創業した個人会社であった。ところが、原告は、被告の株式五二八株(発行済み株式総数八〇〇株の六六%)及び本件特許権等(一部のものを除く)を担保に株式会社サンフジ企画(代表取締役・末吉正氣〔以下「末吉」という〕)から金銭を借り入れていたところ、平成四年四月、アイムユナイテッド(株)に依頼して株式会社サンフジ企画から前記担保株式五二八株を二億円で買い取らせ、その代金により同社に対する自己の債務を消滅させた。続いて、右株式の譲渡により被告の経営権が原告からアイムユナイテッド(株)に移ったことに伴い、原告は、本件特許権等につき被告のため専用実施権を設定し、そのロイヤリティを原告を代表者とする別会社である訴外会社が取得することなどを内容とする本件契約を締結した。

本件契約は、原告が右のように株式会社サンフジ企画に対する二億円の債務を返済するとともに新規に約一億円をアイムユナイテッド(株)から借り入れ、更に経営権を手放した被告からロイヤリティ及び役員報酬名義で定期的に収入を得るべく締結されたものであるが、契約書上は、アイムユナイテッド(株)が被告にいったん約三億円を貸し付け、このうち二億円を被告が株式会社サンフジ企画に返済し、残り七五〇〇万円を原告と同視すべき訴外会社に貸し付けるという形式をとっている。

(二) 次いで平成五年六月、原告は、三人の名義で保有していた被告の残り三四%の株式二七二株を代金四〇八〇万円でアイムユナイテッド(株)に譲渡し、取締役も辞任して被告から完全に身を引くことになったため、原告及びこれと同視すべき訴外会社と被告との間の債権債務関係を清算する必要が生じたので、未払ロイヤリティ等及び本件契約に基づく新規貸付金を全体として調整し、最終的に、被告の訴外会社に対する貸金残額三四二〇万円をもって被告が訴外会社に毎月支払うべきロイヤリティのうち一〇〇万円を分割返済金として相殺し、未払ロイヤリティ等は分割払とする旨の本件変更合意をするに至った。

(三) ところで、アイムユナイテッド(株)が被告の株式五二八株を買い取った平成四年四月の時点で、被告は明らかに債務超過の状態にあり、かつ営業損失及び経常損失を計上している状態であったところ、それにもかかわらず、アイムユナイテッド(株)が被告株式の高額(一株当たり約四〇万円)での買収に応じたのは、原告がアイムユナイテッド(株)に対し、<1>既に本件ロボットの受注が一億七〇〇〇万円分あり、原価はその三分の一である、<2>原告がその技術開発に全面的に協力する、といった約束をしたからである。

ところが、現実には受注の話はなかった上、実際の原価計算では製造原価が売上高にほぼ匹敵し利益が出ないのみならず、本件ロボットには技術的欠陥が多くクレームによる改修のため多額の開発費がかさみ、また、原告は提携後速やかに技術移転をするといいながら実際は設計図面を引き渡すなどの作業に取りかからないため長期間を浪費した。

そのため、被告は原告に対し、平成四年秋以降、約束違反に伴う損害賠償及びロイヤリティの改定を求めて再三協議の申入れをしたが、その点については協議に至らないまま前記のとおり原告が被告の経営から完全撤退することだけに関する本件変更合意をし、損害賠償及びロイヤリティ改定の件は後日の協議に委ねられた。

(四) その後、平成五年八月、アイムユナイテッド(株)から被告の株式全部を譲り受けた岡崎秀世が被告の代表取締役に就任した。右岡崎は、原告の平成五年九月二一日付再通知書(甲六の1)による支払請求に対し、同年一〇月一日付返書(乙四)により、原告には本件契約の債務不履行があり、本件協議条項に基づくロイヤリティ改定の協議に応ずるよう求めたが、原告はこれに応じない。そこで、被告は、平成七年二月二〇日、平成五年一〇月分以降の暫定的なロイヤリティとして月額二〇万円(貸金の相殺分一〇〇万円を含めれば一二〇万円)を支払う旨提案したが、原告はその受領を拒絶したので、被告は、同月二七日、平成五年七月から九月までの分のロイヤリティとして三〇〇万円(月額一〇〇万円)に遅延損害金二六万五九七三円を付加して供託した。なお、原告の受領拒絶の意思が明確であるので、被告はその後の支払は留保している。

2 被告と原告ないし訴外会社との間の債権債務関係

(一) 本件契約が解除された平成五年九月末日時点における被告の訴外会社に対する債権は、左記(1)及び(2)の合計四五四五万三七六〇円である。

(1) 本件変更合意によって確認された被告の訴外会社に対する三四二〇万円の貸金債権のうち、平成五年五月分から同年九月分までのロイヤリティとの相殺勘定による返済分五〇〇万円を差し引いた残額二九二〇万円

(2) 平成四年四月から平成五年七月までの一六か月間被告が訴外会社のために立て替えて住商リース株式会社(以下「住商リース」という)に支払った本件ロボットのリース料合計一六二五万三七六〇円(月額一〇一万五八六〇円)

原告は、訴外会社と被告は、平成二年三月一四日付覚書(甲一一)をもって、訴外会社と住商リースとの間の本件ロボットのリース契約(甲一〇)に基づくリース料は被告が訴外会社を通じて住商リースに支払う旨の合意をした旨主張するが、右覚書は、アイムユナイテッド(株)が株式会社サンフジ企画から被告の株式を買い取った平成四年四月のはるか前に取り交わされたものであるから、本件契約によって承継した債務に含まれていない。のみならず、右覚書取交しの当時、訴外会社の代表者である原告は被告の代表取締役であった末吉とともに被告の実質経営者であって、訴外会社と被告とは同一の経営及び営業実体にあったものであり、かかる状況の下で、右覚書は、その被告の記名押印欄に押捺されているのが被告の正式な社判及び代表者印ではない私的文書であるから、被告を拘束しないというべきである。しかも、右覚書には「備品のリース料……の受領及び支払については、…乙(訴外会社)が甲(被告)に代って受領しかつ立替え払いするものとする。」(3項)と記載されており、立替払約定はあるものの債務承継ないし債務引受に関する合意ではないから、リース料は訴外会社が負担すべきものである。したがって、被告は、右のように本来訴外会社が支払うべきリース料を平成五年七月まで訴外会社のために立替払してきたものであり、その立て替えたリース料の返還請求権を有しているものである。

したがって、逆に被告が訴外会社に対し原告主張の住商リース立替分一二六三万〇九〇四円の返還債務を負っていないことは明らかである。これに対し、原告ないし訴外会社の被告に対する債権は六〇〇万円(未払ロイヤリティ等四〇〇万円と変更ロイヤリテイニ〇〇万円の合計)にすぎないから、平成五年九月末日時点において、被告は訴外会社に対し、差引き三九四五万三七六〇円の残債権を有していたことになる。

(二) 暫定ロイヤリティの提示

平成五年一〇月以降は、本来当事者間の協議によってロイヤリティの改定がされるべきであったが、原告がこれに応じないため、被告においては前記のとおり、平成七年二月二〇日、平成五年一〇月分以降の暫定的なロイヤリティとして月額二〇万円(貸金の相殺分一〇〇万円を含めれば一二〇万円)を支払う旨提案した。

したがって、同月以降は右(一)の残債権三九四五万三七六〇円は毎月一二〇万円ずつ減額されていく計算となるから、平成八年六月末日時点では、三三か月分の三九六〇万円が減額されるべきところ、前記のとおり被告は平成七年二月二七日にそれらの一部金として元本換算で三〇〇万円を供託したから、結局三六六〇万円の減額となって、被告の訴外会社に対する残債権の額は差し引き二八五万三七六〇円となる。

(三) 解除の無効

原告は、本件契約の解除の意思表示をした時点として、<1>平成五年九月時点、<2>平成六年四月時点、<3>同年八月時点を主張するようであるが、原告ないし訴外会社の被告に対する債権の額は、<1>の時点で八〇〇万円、<2>の時点で一五〇〇万円、<3>の時点で一九〇〇万円にとどまる。一方、被告の訴外会社に対する貸金債権残額は、<1>の時点で三〇二〇万円、<2>の時点で二三二〇万円、<3>の時点で一九二〇万円もあるから、いずれの時点においても原告に一方的に金銭的負担を強いる内容にはなっていない。したがって、継続的契約における信頼関係を破壊するには未だ至っていない。

また、被告は、平成八年七月二日に原告に到達した被告の同日付準備書面により、被告の訴外会社に対する前記(一)の(1)及(2)の合計四五四五万三七六〇円の債権を自働債権とし、原告ないし訴外会社の被告に対する前記(一)の六〇〇万円と前記(二)の平成五年一〇月から平成八年六月までの間の未払の計算となっている毎月一二〇万円の割合によるロイヤリティ三六六〇万円の合計額四二六〇万円の債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

【原告の主張】

以下の1及び2の事実に照らせば、原告による本件契約の解除は信義則に反するものではなく、解除の意思表示は有効というべきである。

1 被告の態度

被告は、原告の平成五年九月二一日付再通知書(甲六の1)による未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティの合計六〇〇万円の支払請求に対し、これを拒絶し、同年一〇月一日付返書(甲七)において本件変更合意を無視する態度に出、更に平成六年二月一〇日付書面(甲八)により、本件変更合意に基づくロイヤリティの支払約束を平成五年九月中間決算期に遡って破棄する旨、一方的に通知してきたものであるから、原告は、もはやこれ以上本件契約を続行することは不可能と判断し、解除の意思表示をしたものである。

2 被告と原告ないし訴外会社との間の債権債務関係

(一) 平成六年四月一一日到達の同月七日付通知書(甲九の1)により本件契約が解除されたと認められる場合

(1) 原告ないし訴外会社が被告に請求できる金額 合計二七六三万〇九〇四円

<1> 未払ロイヤリティ等の残額六〇〇万円

<2> 変更ロイヤリティの未払分九〇〇万円(一か月一〇〇万円の平成五年七月から平成六年三月までの九か月分)

<3> 住商リース立替分一二六三万〇九〇四円

訴外会社は、住商リースとの間で本件ロボツトのリース契約(甲一〇)を締結していたところ、訴外会社と被告は、平成二年三月一四日付覚書(甲一〇)をもって、右リース契約に基づくリース料(一か月九七万〇二六〇円)は被告が訴外会社を通じて住商リースに支払う旨の合意をした。被告は、右合意に基づき平成五年七月分までのリース料を支払ったが、同年八月分以降の支払を怠ったため、訴外会社は同月末日をもって右リース契約を解除して本件ロボツトを返還した上、住商リースに対し損害金一一三五万五二三五円、利息金二三万八四五九円、未払リース料(平成五年八月分)九七万〇二六〇円、運送費六万六九五〇円の合計一二六三万〇九〇四円を被告に代わって立替払したから、訴外会社は、被告に対し右と同額の返還請求権を有している。

(2) 訴外会社が被告に対して負っている貸金債務の残額 二三二〇万円

訴外会社は、被告に対する本件変更合意に基づく三四二〇万円の貸金債務につき、平成五年五月から平成六年三月までの一一か月間、月額一〇〇万円の割合により合計一一〇〇万円を被告に返済した計算になるから、訴外会社の貸金債務の残額は二三二〇万円となる。

(3) 結論

よって、原告ないし訴外会社は、平成六年四月一一日の段階において、被告に対し(1)の合計額から(2)の金額を差し引いた四四三万〇九〇四円の債権を有していたことになる。

(二) 平成六年八月一一日送達の訴状により本件契約が解除されたと認められる場合

(1) 原告ないし訴外会社が被告に請求できる金額 合計三一六〇万〇九〇四円

<1> 未払ロイヤリティ等の残額六〇〇万円

<2> 変更ロイヤリティの未払分一三〇〇万円(一か月一〇〇万円の平成五年七月から平成六年七月までの一三か月分)

<3> 住商リース立替分一二六三万〇九〇四円

(2) 訴外会社が被告に対して負っている貸金債務の残額 一九二〇万円

訴外会社は、被告に対する本件変更合意に基づく三四二〇万円の貸金債務につき、平成五年五月から平成六年七月までの一五か月間、月額一〇〇万円の割合により合計一五〇〇万円を被告に返済した計算になるから、訴外会社の貸金債務の残額は一九二〇万円となる。

(3) 結論

よって、原告ないし訴外会社は、平成六年八月一一日の段階において、被告に対し(1)の合計額から(2)の金額を差し引いた一二四三万〇九〇四円の債権を有していたことになる。

第三  争点(原告が被告の未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティの不払を理由として本件契約を解除することは信義則に反するか)に対する判断

一  本件協議条項違反等について

1  証拠(甲一の1ないし9、二ないし五、六の各1・2、七、八、九の1・2、乙一ないし四、五の1・2、六ないし一三、一六、一七、証人増山博昭、原告本人、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、本件ロボツトの製品化を目的とした訴外会社を経営していたが、平成元年一二月、末吉の経営する株式会社サンフジ企画を主たる出資者として、専ら本件ロボツトの製造販売を目的とする被告を設立した。株式会社サンフジ企画は、担保として被告の発行済み株式総数の六六%に当たる五二八株を取得し、末吉が被告の代表取締役会長に就任した。一方、原告は、残り三四%の被告の株式二七二株を保有し、取締役社長に就任した。原告は、平成二年三月から平成三年二月にかけて、被告のために、株式会社サンフジ企画から多額の金員を借り受け、本件特許権等(一部のものを除く)に質権も設定した。

(二) ところが、末吉は、被告の事業資金の調達能力を失ったことなどから、平成四年四月一七日頃、株式会社サンフジ企画の保有する前記株式五二八株をアイムユナイテッド(株)に代金二億〇〇六四円で譲り渡して被告の取締役を辞任した。

そして、このいわゆる企業買収により被告の経営権が移転したのに伴い、同月、アイムユナイテッド(株)の代表取締役である井出及び企業買収を仲介した増山博昭(以下「増山」という)が被告の代表取締役に就任し、原告は、なお被告の株式の三四%を保有する者として引き続き取締役として残るとともに(原告と増山の役員報酬は月額各一〇〇万円)、本件特許権等の保有者として、被告のため本件特許権等について専用実施権を設定し、訴外会社(原告を唯一の出資者とする有限会社であり、原告と実質上同一視できる)がロイヤリティを取得することなどを内容とする本件契約を締結した。

原告の株式会社サンフジ企画に対する前記債務は、被告の株式五二八株の右譲渡代金により返済されたが、本件契約と同時に、アイムユナイテッド(株)が被告に二億一七〇〇万円を貸し付け、被告がこれをもって原告の株式会社サンフジ企画に対する前記債務の返済に充てたものとし、被告はこれとは別にアイムユナイテッド(株)から借り受けた一億円のうち七五〇〇万円を訴外会社に貸し付けることを、アイムユナイテッド(株)、訴外会社、原告、増山の間で合意した。

(三) ところが、本件ロボツトの製造販売による被告の収益は思わしくなく赤字続きであり、井出の資金調達も苦しくなってきたことなどから、平成五年一月、増山は、原告ないし訴外会社に対し、ロイヤリティの年間最低保証額を一二〇〇万円(月額一〇〇万円)に半減させることなどを内容とする本件契約の改定案を提示し(乙一二)、被告は、同月分以降のロイヤリティを支払わなくなった。

また同年二月頃、井出は、原告に対し、原告は平成四年四月段階で、本件ロボツトにつき「億七千数百万円分の受注があり、製造原価はその三分の一である旨説明していたのに、その後原価計算してみるとほぼ販売価格に匹敵し粗利益がほとんどない、原告は技術移転に協力しない、本件ロボツトの製品がことごとく不良で納品先からクレームが来ているなどとして原告を非難し、かかる事態においてはロイヤリティを支払う義務はないばかりでなく、既に支払ったロイヤリティも返還されるべきである、という趣旨を記載した文書(乙八)を交付した。

(四) その後、原告と井出らとの間で交渉が重ねられた結果、平成五年六月一〇日、被告及びアイムユナイテッド(株)の代理人弁護士と訴外会社及び原告外二名の代理人弁護士との間で、原告が同年三月末日付で被告の取締役を辞任したことを確認すること、原告外二名はその保有する被告の株式全部(二七二株)をアイムユナイテッド(株)に譲渡し(一株一五万円)、同社が支払うべきその代金四〇八〇万円は、訴外会社から前記七五〇〇万円の貸金のうちの四〇八〇万円の返済を受けた被告からアイムユナイテッド(株)が返済を受けた四〇八〇万円を充てること、被告の訴外会社に対する右貸金の残額三四二〇万円は無利息の長期貸付金とし、同年五月以降毎月末日に被告が支払うべきロイヤリティのうち一〇〇万円を超過する部分(最低保証額一〇〇万円)を右長期貸付金の返済に充て、右一〇〇万円(変更ロイヤリティ)を訴外会社に支払うものとすること、未払のロイヤリティ八〇〇万円(平成五年一月から四月までの分)及び役員報酬二〇〇万円(同年一月から三月までの分のうちの未払分)の合計一〇〇〇万円(未払ロイヤリティ等)については、被告は、これを同年六月一〇日以降毎月一〇日限り二〇〇万円ずつ分割返済することなどを内容とする本件変更合意をした。

(五) しかし、被告は、未払ロイヤリティ等については、平成五年六月一〇日及び七月一〇日支払分の合計四〇〇万円は支払ったが、三回目の支払期日である同年八月一〇日に支払うべき二〇〇万円の支払をせず、変更ロイヤリティについても、同年五月末日及び六月末日支払分は支払ったが、同年七月分以降の支払をしなかった。

そのため、原告は、代理人弁護士により、同年八月二〇日到達の通知書及び同月二四日到達の訂正通知書(甲四、五の各1)をもって被告に対し、同年八月一〇日に支払うべき未払ロイヤリティ等二〇〇万円と同年七月末日及び八月末日に支払うべき変更ロイヤリティ二〇〇万円の合計四〇〇万円の支払を求めたが、支払がなかったため、同年九月二二日到達の同月二一日付再通知書(甲六の1)をもって、右四〇〇万円に同年九月一〇日に支払うべき未払ロイヤリティ等二〇〇万円を加えた六〇〇万円の支払を催告したが、やはり支払はなかった。

(六) その間の平成五年八月、アイムユナイテッド(株)から被告の株式全部を譲り受けた岡崎秀世が被告の代表取締役に就任していたが、同人は、前記原告代理人弁護士からの各通知書に対し、本件契約について原告の方に先に債務不履行があったのではないか、また、改めて原告との再協定を検討したいなどと記載した同年一〇月一日付返書(甲七、乙四)を原告代理人弁護士に送付した。

また、被告は、代理人弁護士により、平成六年二月一四日到達の原告代理人弁護士宛同月一〇日付通知書(乙五の1)をもって、月額一〇〇万円のロイヤリティについては本件契約締結の前提となる予定受注額と原価率が実情と大きくかけ離れており、とても支払える状態にはないから、本件協議条項に従い、平成五年九月中間決算期をもってロイヤリティの支払約束を破棄する旨通知した。

(七) 被告は、平成七年二月二〇日、代理人弁護士を通じて原告代理人弁護士に対し、平成五年七月から九月までは月額一〇〇万円の変更ロイヤリティを支払い、同年一〇月以降は暫定的なロイヤリティとして月額二〇万円(貸金の返済分一〇〇万円を加えれば一二〇万円)を支払うことなどを文書で提案したが(乙七)、原告の容れるところとはならなかった。そこで、被告は、同月二七日、とりあえず平成五年七月から九月までの三か月分のロイヤリティとして三〇〇万円及びその遅延損害金として二六万五九七三円、合計三二六万五九七三円を供託した(乙一〇)が、それ以降は支払も供託もしていない。

2  右1認定の事実及び争いのない前記第二の一の事実によれば、本件契約においては、本件特許権等の専用実施権の対価としてのロイヤリティは、売上高(売上ロイヤリティ)及び工場出荷額(製造ロイヤリティ)に対する一定割合として算出するものとする一方、その年間最低保証額を二四〇〇万円とし、一か月二〇〇万円宛支払うものと定められたものであり、本件変更合意によっても、年間最低保証額自体は変更されず、ただ月額二〇〇万円のうち一〇〇万円を被告の訴外会社に対する長期貸付金三四二〇万円の返済に充てることとしたため、現実には残額の一〇〇万円(変更ロイヤリティ)が毎月訴外会社に支払われることになったにすぎないものである。そして、本件契約は、アイムユナイテッド(株)が被告会社の株式の六六%を保有していた株式会社サンフジ企画(代表取締役・末吉)からその株式を買い取るといういわゆる企業買収の一環として締結されたものであるが、アイムユナイテッド(株)ないしその代表取締役である井出が右買収をする大きな動機となったと思われる本件ロボツトの製造販売による被告の収益が思わしくなく赤字続きであったところ、平成五年一月には、被告の代表取締役である増山が原告ないし訴外会社に対し、ロイヤリティの年間最低保証額を一二〇〇万円(月額一〇〇万円)に半減させることなどを内容とする本件契約の改定案を提示し(乙一二)、同時に被告は同月分以降のロイヤリティを支払わなくなり、更に同年二月頃、被告のもう一人の代表取締役である井出が原告に対し、その記載内容の真偽は別として、原告は平成四年四月段階で、本件ロボツトにつき一億七千数百万円分の受注があり、製造原価はその三分の一である旨説明していたのにその後原価計算してみるとほぼ販売価格に匹敵し粗利益がほとんどない、原告は技術移転に協力しない、本件ロボツトの製品がことごとく不良で納品先からクレームが来ているなどとして原告を非難し、かかる事態においてはロイヤリティを支払う義務はないばかりでなく、既に支払ったロイヤリティも返還されるべきである、という趣旨を記載した文書(乙八)を交付するという事態が生じたため、その後原告と井出らとの間で交渉が重ねられた結果、平成五年六月一〇日、被告及びアイムユナイテッド(株)の代理人弁護士と訴外会社及び原告外二名の代理人弁護士との間で、前記のとおりの内容の本件変更合意をするに至ったものである(被告は、損害賠償及びロイヤリティ改定の件は後日の協議に委ねられたと主張し、あたかも当事者間で本件変更合意の後にロイヤリティ改定の協議に入ることを予定していたかのようにいうが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない)。

しかるに、被告は、未払ロイヤリティ等については、平成五年六月一〇日及び七月一〇日支払分の合計四〇〇万円は支払ったが、早くも三回目の支払期日である同年八月一〇日に支払うべき二〇〇万円の支払をせず、変更ロイヤリティについても同年五月末日及び六月末日分は支払ったが、同年七月分以降の支払をしなかったというのである。被告がロイヤリティを支払わない理由として被告が本件訴訟において主張するところは、アイムユナイテッド(株)が被告の株式を買い取った平成四年四月の時点で井出が本件ロボツトの受注量及び製造原価について原告から説明を受けていた事情が現実と大きく異なっていることや、本件ロボツトには技術的欠陥が多くクレームによる改修のため多額の費用がかさむこと、約束した技術移転に原告が協力しないことというような、被告ないし井出が本件変更合意の前から原告に対する非難として述べていた点の域を出ないものであって、これらの点も考慮に入れた上で原告と井出らとの間で交渉が重ねられた結果、被告及びアイムユナイテッド(株)側と訴外会社及び原告外二名側の双方とも弁護士が代理人となって本件変更合意をしたものであるから、本件変更合意からせいぜい二か月しか経過しておらず、その間特段の事情の変化も認められないのに、被告が本件変更合意に基づく未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティを二か月分支払ったのみでその後これを支払わないことには、到底正当な理由があるとはいうことはできない。

なお、被告は、本件協議条項に基づき原告に対しロイヤリティの改定等を求めて再三協議の申入れをしたにもかかわらず、原告がこれに応じなかったとも主張するが、本件変更合意がされた平成五年六月一〇日から被告が変更ロイヤリティ及び未払ロイヤリティ等を支払わなくなった同年七月末日ないし八月一〇日までの間に、被告が原告ないし訴外会社にロイヤリティの改定等に関する協議を申し入れたことを認めるに足りる証拠はない。

二  被告と原告ないし訴外会社との間の債権債務関係

1  原告が平成六年四月一一日到達の同月七日付通知書(甲九の1)をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは、前記第二の一6記載のとおり当事者間に争いがない。

2(一)  右解除の意思表示の時点である平成六年四月一一日の時点では、本件変更合意に基づき被告が支払うべき未払ロイヤリティ等の残額は六〇〇万円(一か月二〇〇万円の平成五年八月から一〇月までの三か月分)、変更ロイヤリティの未払額は合計九〇〇万円である(一か月一〇〇万円の平成五年七月から平成六年三月までの九か月分)。

そして、証拠(甲一〇ないし一三、乙一八、証人増山博昭、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、訴外会社は、平成元年九月二一日、住商リースとの間で同社から本件ロボット一式のリースを受ける旨のリース契約を締結していたところ(リース期間六〇か月、月額リース料九七万〇二六〇円〔消費税相当額を含む〕各月三日払)、原告が同年一二月に専ら本件ロボットの製造販売を目的とする被告を設立した際、訴外会社は、本件ロボット一式は被告がその横浜工場において使用するものであるから被告が右リース契約の賃借人になるべきであるとの理由で、右リース契約の賃借人を被告に変更しようとしたが、住商リースにこれを認めてもらえなかったため、平成二年三月一四日、同日付覚書(甲一一)をもって、被告(代表取締役・末吉)との間で、当分の間被告が右リース料相当額を事前に訴外会社の口座に入金し、訴外会社が右リース契約の賃借人として被告に代わって住商リースに支払う旨の合意をしたこと、被告は、右合意に基づき、平成五年七月三日支払分まで月額リース料相当額を毎月訴外会社の口座に入金していたが、被告が同年八月三日支払分を訴外会社の口座に入金しなかったため、訴外会社も住商リースにリース料を支払えなかったので、訴外会社は、平成五年八月一九日頃、住商リースから右リース契約を解除され、その頃、規定損害金一一三五万五二三五円、利息二三万八四五九円、平成五年八月分の未払リース料九七万〇二六〇円、運送費六万六九五〇円の合計一二六三万〇九〇四円を住商リースに支払ったことが認められる。すなわち、右覚書の3項には、「平成二年二月一日以降の、費用の発生に係る乙(訴外会社)から第三者への出金に関し、乙(訴外会社)は該出金を甲(被告)に代ってする立替金として処理し、甲(被告)は乙(訴外会社)に該出金額を事前に速やかに入金するものとする。なお、甲(被告)の本社工場の賃借料、備品のリース料、電話料等の被請求書の受領及び支払については、上記同意に基き、当座の期間、乙(訴外会社)が甲(被告)に代って受領しかつ立替え払いするものとする。」と記載されており、右にいう「備品のリース料」に当たると解される本件ロボットのリース料は本来自ら本件ロボットを使用していた被告がこれを負担すべきところ、右リース契約が被告設立前に締結されていて訴外会社がその賃借人となっていた関係上、被告が事前に訴外会社の口座に入金したリース料相当額をもって訴外会社が住商リースに右リース料を支払う旨合意したものであって、被告と訴外会社との間においては、リース料は被告の負担とする旨合意されていたものと認められる。

被告は、右覚書は、アイムユナイテッド(株)が株式会社サンフジ企画から被告の株式を買い取った平成四年四月のはるか前に取り交わされたものであるから、本件契約によって承継した債務に含まれていないと主張するが、採用できない。また、被告は、右覚書取交しの当時、訴外会社の代表者である原告は被告の代表取締役であった末吉とともに被告の実質経営者であって、訴外会社と被告とは同一の経営及び営業実体にあったものであり、かかる状況の下で、右覚書は、その被告の記名押印欄に押捺されているのが被告の正式な社判及び代表者印ではない私的文書であるから、被告を拘束しないと主張するが、かかる事実は右覚書に基づく合意の効力を左右するものではない。更に、被告は、右覚書には立替払約定はあるものの債務承継ないし債務引受に関する合意ではないから、リース料は訴外会社が負担すべきものである旨主張するが、住商リースに対するリース料支払債務を直接被告に負担させるのであればともかく、単に被告と訴外会社との間でリース料は被告の負担とする旨を約し、これを前提として訴外会社が右リース料を被告に代わって住商リースに支払う旨を約するのに債務承継ないし債務引受の合意が必要であるとも解されない。

そうすると、右リース契約の解除に伴い訴外会社が住商リースに支払った前記規定損害金等も、被告との間では被告が負担すべきものであって、訴外会社は被告に対し、右支払額相当の費用償還請求権を有するものというべきである。

したがって、原告ないしこれと同視すべき訴外会社が被告に対し有する債権の額は、合計二七六三万〇九〇四円ということになる。

(二)  これに対し、平成六年四月一一日の時点において、被告が訴外会社に対して有する債権の額は、本件変更合意に基づく長期貸付金三四二〇万円から、平成五年五月以降毎月末日に被告が支払うべきロイヤリティのうち一〇〇万円を超過する部分(最低保証額一〇〇万円)の平成六年三月までの一一か月間分合計一一〇〇万円(右長期貸付金の返済に充てられた)を控除した二三二〇万円となる。被告は、訴外会社に対する債権として、右長期貸付金の外に、訴外会社のために立て替えた前記リース料の返還請求権を有していると主張するが、右リース料が被告と訴外会社との間では被告の負担とする旨合意されていたことは前示のとおりであるから、原告ないし訴外会社にその返還を求めることはできない。また、被告は、平成七年二月二〇日、平成五年一〇月分以降の暫定的なロイヤリティとして月額二〇万円(貸金の相殺分一〇〇万円を含めれば一二〇万円)を支払う旨提示したとして、これに基づく計算関係を主張するが、右提案が原告ないし訴外会社を拘束するとする根拠はない。被告主張の供託も、その前提たる弁済の提供が債務の本旨に従った提供ではないから、有効とはいえない。

したがって、右時点において、原告ないしこれと同視すべき訴外会社が被告に対して有する債権の額が被告が訴外会社に対して有する右貸付金債権の残額を上回っているのみならず、そもそも右長期貸付金の返済は被告から受け取るべきロイヤリティのうち一〇〇万円を超過する部分を充てることによってするものとされているのであって、原告は右長期貸付金残額二三二〇万円の支払を怠っているとはいえないから、被告が右長期貸付金債権残額二三二〇万円を有しているからといって、被告の未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティの不払に正当な理由があるといえないことは明らかである。

また、被告が、平成八年七月二日に原告に到達した被告の同日付準備書面により、被告の訴外会社に対する前記第二の二【被告の主張】2(一)の(1)及び(2)の合計四五四五万三七六〇円の債権を自働債権とし、原告ないし訴外会社の被告に対する六〇〇万円(未払ロイヤリティ等四〇〇万円と変更ロイヤリティ二〇〇万円の合計)と平成五年一〇月から平成八年六月までの間の未払の計算となっている毎月一二〇万円の割合によるロイヤリティ三六六〇万円の合計額四二六〇万円の債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著な事実であるが、被告が自働債権として主張する被告の訴外会社に対する債権のうち、長期貸付金債権の残額は未だ履行期が到来していないから相殺適状にはなく、被告が支払ったリース料相当額については原告ないし訴外会社にその返還を求めることができないことは前示のとおりであるから、右相殺の主張も失当である。

三  信義則違反の主張についての結論

したがって、右一及び二の説示に照らせば、原告が被告の未払ロイヤリティ等及び変更ロイヤリティの不払を理由として本件契約を解除することは、信義則に反するとはいえないから、原告による本件契約の解除の意思表示は有効というべきである。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるというべきところ、職権をもって調査するに、本件特許権等のうち、別紙特許権等目録一、二、三、六の各1記載の特許権及び九の1記載の実用新案権は、それぞれ平成八年二月二六日(甲一の1)、同年六月九日(甲一の2)、同年五月二一日(甲一の3)、平成七年一二月一八日(甲一の6)、平成八年三月一二日(甲一の9)の経過により存続期間が満了し既に消滅していることが認められ、かかる既に存在しない特許権及び実用新案権についての専用実施権設定登録の抹消登録手続を求める利益は存しないから、本件訴えのうち、右各特許権及び実用新案権に係る部分は却下を免れない。

よって、主文のとおり判決する(なお、認容の主文に登録原因を明記することとする)。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

特許権等目録

一1 特許権

(一) 特許番号 第一〇九七二〇〇号

(二) 登録年月日 昭和五七年五月一四日

(三) 発明の名称 吸着自走式研掃装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二一一号

(二) 受付年月日 平成四年九月二日

(三) 原因 平成四年七月三〇日契約

(四) 範囲 地域 日本全国

期間 本特許権の存続期間満了まで

内容 全部

二1 特許権

(一) 特許番号 第一二八〇五二七号

(二) 登録年月日 昭和六〇年九月一三日

(三) 発明の名称 吸着装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二一〇号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

三1 特許権

(一) 特許番号 第一三〇三三九三号

(二) 登録年月日 昭和六一年二月二八日

(三) 発明の名称 壁面に吸着し且つそれに沿って移動可能な装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二〇九号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

四1 特許権

(一) 特許番号 第一三二三八四三号

(二) 登録年月日 昭和六一年六月二七日

(三) 発明の名称 壁面に吸着し且つそれに沿って移動可能な装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二〇八号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

五1 特許権

(一) 特許番号 第一三四六六二四号

(二) 登録年月日 昭和六一年一一月一三日

(三) 発明の名称 壁面吸着研掃装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二〇七号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

六1 特許権

(一) 特許番号 第一三六九三〇八号

(二) 登録年月日 昭和六二年三月二五日

(三) 発明の名称 吸着自走装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二〇六号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

七1 特許権

(一) 特許番号 第一六二九五一九号

(二) 登録年月日 平成三年一二月二〇日

(三) 発明の名称 研掃材噴射装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二一五号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

八1 特許権

(一) 特許番号 第一六二九五三二号

(二) 登録年月日 平成三年一二月二〇日

(三) 発明の名称 研掃装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第三二一四号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

九1 実用新案権

(一) 登録番号 第一七〇一六四九号

(二) 登録年月日 昭和六二年一〇月二七日

(三) 発明の名称 壁面吸着移動清掃装置

2 専用実施権設定登録

(一) 受付番号 第一二三四号

(二) 右(一)以外の内容 前記一2の(二)ないし(四)と同一

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